アンカリング効果は意思決定に影響を及ぼす心理効果の一つですが、ビジネスやプライベートにも役立てることができます。今回はそんなアンカリング効果について記事にまとめます。
アンカリング効果の概要と具体例
アンカリング効果とは、最初に提示された情報(数字や条件など)に引きずられて、その後の判断や評価が影響を受けてしまう心理現象のことです。
人は判断や意思決定をするとき、無意識のうちに最初に得た情報を「基準(アンカー)」としてしまいます。その基準が正確かどうかに関係なく、以後の判断がその「アンカー」に強く影響されてしまうのです。ちなみに、アンカーとは錨(Anchor)のことを指しています。
いくつか具体例を確認してみましょう。
・定価10,000円の商品がタイムセールで20%OFFになっていて購買意欲が高まった
・プレゼンの最初に競合他社の事例が提示されると、競合他社の情報が気になり始める
・高額な買い物(車、結婚式など)をする際、最初に提示された費用が高額のため、その後のオプション購入のハードルが下がってしまった
・家賃10万円以内で物件を探しているところ、家賃13万円の物件を提示されたあとに家賃11万の物件を提示されると、予算を超えているが決断してしまいそうになる
特にタイムセールや在庫処分などによる値引きによる購買意欲の促進は皆さんも生活の中でご経験があるのではないでしょうか。値引き後の価格だけわかれば購入はできますが、値引き前の値段を記載しておくというのはアンカリング効果による意思決定を促していたわけです。
アンカリング効果が起こる理由について、人間の脳は物事の判断を行うとき「基準点(アンカー)」を必要とするため、最初に与えられた情報が自動的に基準になってしまうといわれています。そして、そのアンカーを柔軟に「調整」できないため、最初の印象に強く縛られるのです。
アンカリング効果の活用例
アンカリング効果は、ビジネスやプライベートで有用なツールにすることができます。一例としていくつか活用例を挙げたいと思います。

ビジネスシーン1:マーケティング
アンカリング効果を最も活用している分野がマーケティングの領域です。たとえば、コース料理の価格設定やオプション料金などの例が挙げられます。
「4万円」と「2万円」の2つの価格帯のコースが用意されている場合、多くのは高い方のメニューが先に目に入るように情報が並べられています。高い方の価格がアンカー(基準)となって印象り、その後安い方のメニューが目に入ることで、意思決定を促しているのです。※このような場合、販売側は2万円のコースを数多く売りたいと考えていることが多いです。
また具体例でも記載しましたが、高価な買い物を行う際にアンカリング効果は強く作用します。200万円の車を買ったあとに1万円のオプション商品を勧めると、購入者には「200万円に比べれば安いものだ」というアンカリングが働き、オプション購入を受け入れやすくなるのです。
ビジネスシーン2:営業や交渉
自分が営業担当だとイメージしてください。5万円で売りたい商品があった場合、最初から5万円を提示するのではなく、まずは10万円で提示することで、相手はアンカー(基準)を無意識に設定してしまいます。その後、特別値引きとして今回は半額として5万円を提示すれば相手はその商品を受け入れやすくなるでしょう。
また、交渉にも役立てることができます。納期を3日後に設定したい場合は、最初に1週間というアンカーを提示することで落とし所を3日にし易くなります。

プライベートシーン1:信頼関係の構築など
例えば友人と「1週間後に借りた本を返す」という約束があったとしましょう。この際、1週間で読めそうな本であっても、最初から1週間というアンカー(基準)を設定するのではなく、「きちんと読みたいから2週間借りてもよいか?」というコミュニケーションでアンカーを2週間に設定します。その後1週間で読み終えて返却すれば、相手からは「約束を守る人」「自分のことを考えてくれる人」という印象をもたれ易いでしょう。
ブライベートシーン2:各種場面での交渉やコミュニケーション
特に恋愛においてはお金が絡むことがも多々あります。デートや旅行にかける費用や、その先の婚約や結婚式にもお金はつき物ですよね。双方の性格や相性などにもよりますが、この費用感の中で抑えたいという強い希望がある場合は、最初に基準となるアンカーを共有することも大切です。特にまだ二人の金銭的な価値観が十分にわかっていない場合は「○万円〜○万円」といった形で幅を持たせることもよいでしょう。
アンカリング効果活用時の注意点

アンカリング効果を活用する際は、下記に注意する必要があります。注意点を認識して正しく活用しましょう。
非常識なアンカー(基準)は設けない
先ほど例に出した5万円で商品を売りたい場合の事例について、商品にもよりますが、提示価格が50万円といわれると相手は逆に警戒や不信感を抱き、購買意欲が減衰してしまいます。アンカーを基準に交渉が進まなければ意味がないので、常識的な範囲でアンカーを提示することが大切です。
アンカー(基準)を出すタイミング
交渉や提案をする際、立場や状況にもよりますが、アンカーを提示するタイミングが重要です。席について開口一番「○円以下でないと購入しません」と伝えてしまうと、その後相手のモチベーションが下がりますし、関係性が崩れてしまう可能性もあります。会話の中でタイミングを見計らいながらアンカーを提示することを心がけましょう。
アンカー(基準)はなるべく定量情報で提示する
コミュニケーションにおいて、ビッグワード(聞き手によって解釈が異なる言葉)が多くなってしまうと適切な情報交換ができなくなります。アンカリング効果でも同様で、アンカー(基準)となる言葉にビッグワードを含めないように注意しましょう。例えば「できるだけ安く」「なるべく短納期で」「コスパ重視で」などは、アンカーが曖昧でミスコミュニケーションを誘発します。お互いが明確に認識できるアンカーを設定しましょう。
最後に
この記事ではアンカリング効果について説明しました。皆さんも生活の中でアンカリング効果に自分の意思決定を誘発されているシーンや、無意識的に活用していたシーンもあるのではないでしょうか。様々なコミュニケーションの場で有用な心理効果になり得るので、是非理解を深めて活用してみてはいかがでしょうか。