「ドア・イン・ザ・フェイス」「フット・イン・ザ・ドア」という言葉をご存知でしょうか。横文字で聞き馴染みのない言葉かもしれませんが、特にビジネスシーンにおける交渉や依頼の場でよく活用されています。間違いなく有益な情報なので、是非この記事で理解を深めてみてください。
ドア・イン・ザ・フェイスの概要と活用例
概要
ドアインザフェイスは、初めに「大きな要求」をして相手に断られた後に、本命に関連する「小さな要求」をすることで、本命の要求を受け入れてもらいやすくするテクニックを指します。

慣用句の「shut the door in the face(門前払い)」から来ており、営業マンが訪問販売時に「断られることを前提に、ドアから顔を覗かせる」という行動からできた言葉です。
例えば、交渉や依頼をする際、最初にあえて難易度の高い要求をして相手に一度断らせます。次に、要求レベルを少しずつ下げながら交渉し、最終的に小さな要求(本命の要求)まで話を持っていきます。相手は、最初の要求を断ったことへの罪悪感を抱いているため「断ったお詫びにこのくらいなら受け入れよう」と小さな要求を承諾しやすくなるのです。
ドア・イン・ザ・フェイスは別名「譲歩的依頼法」とも呼ばれ、相手が何かを譲ってくれたときに「次は自分がお返しをしなければ申し訳ない」という「返報性の原理」を応用したテクニックでもあります。
また、相手に満足感を与えるのもこのテクニックの大きな特徴です。例えば、訪問販売で最初に高い金額を提示した際に、相手から「この金額は高いからもう少し安くしてほしい」と要求されたとします。その要求を受け入れて値引きに応じることで、相手は「交渉で有利な結果にできた」と満足感を得るのです。営業マン側は想定通りの流れでも、顧客には満足してもらえるというわけです。最初に提示された情報が基準となり易い「アンカリング効果」とも親和性の高いドア・イン・ザ・フェイスですが、アンカリング効果は「対比によって要求を受け入れやすくすること」に対し、ドアインザフェイスは「最初の要求を一度断らせて、次の要求を受け入れてもらうこと」という違いがあります。
活用例とポイント
ドア・イン・ザ・フェイスは対人コミュニケーションの様々な場面で活用することができます。いくつか会話ベースで例をあげてみます。
例1:「こちら30万円のプランになります」→「ご予算が合わない場合、10万円のプランもございます」
例2:「次の旅行は海外にしない?」→「海外が厳しいようなら日本で少しだけ良いところに泊まろうよ!」
例3:「今週土曜に1日時間をくれない?」→「難しいなら半日だけでも時間くれないかな?」
例4:「この大規模プロジェクト任せてもいい?」→「今忙しいか、、、じゃあこの調査だけでもお願いできない?」
このような形のコミュニケーションは皆さんも想像に易いですよね。ポイントは「最初の要求は断らせる(断った罪悪感を持たせる)」ということと、自分が通したい要求の大きさに応じてそれまでに出す要求の大きさや回数を調整するということです。この点を意識して、是非活用してみてください。
フット・イン・ザ・ドアの概要と活用例
概要
フット・イン・ザ・ドアとは、最初に相手に小さな要求を呑ませ、段々とその要求を大きくしていくことで目的となる要求を承諾させる心理テクニックです。

このテクニックは、訪問販売のセールスマンが話を聞いてもらうため、扉を閉められないように靴先をドアの中に突っ込む行為( foot in the door )に由来しています。
段階的要請法とも呼ばれ、人間の「一度ある立場を取ったら、その立場を簡単に変えたくない、あるいは意見を簡単に変える人であると思われたくない」という心理、すなわち一貫性の原理を使っています。わかりやすくいえば、人間は「一度相手の要求を受け入れてしまうと、次の要求を拒否しにくくなる」心理を持っているのです。
例えば、訪問販売の「5分だけでもお話を聞いてもらえないでしょうか」という要求をOKしてしまうと、その次の「チラシを見てもらえませんか」「今契約すれば初回の水代が無料ですので、ウォーターサーバーを試してみませんか」といった要求もOKしやすくなってしまうことなどが挙げられます。
活用例とポイント
このフット・イン・ザ・ドアの活用例も見てみましょう。おそらく皆さんも身近なところでご経験があると思います。
顧客にいきなり商品やサービスの購入や契約を迫るのではなく、無料サンプルや試用期間を設けて、まず商品・サービスを試してもらうのもフットインザドアの手法です。無料サンプルや試用期間であれば料金が発生しないため、顧客も手を出し易くなることと、一度承諾してしまうと「次も承諾しなくてはならない」という一貫性の原理が働き、正式な契約に結びつきやすくなるのです。
顧客の立場では、サンプルや試用期間で使い勝手が分かるため、安心して契約に至りやすいというメリットもあります。試着や試食、無料体験レッスンなどもこの手法の応用です。
企業がSNSアカウントやオウンドメディアで集客する際、いきなり商品やサービスを紹介し、読者に購入を迫るのではなく、メルマガや資料請求など小さな承諾行為を挟んでから購入に結びつけるのもフットインザドアの具体例です。
いきなり商品の購入やサービスの契約を突きつけられても読者は戸惑ってしまいます。しかし、間に「メルマガ登録」や「ホワイトペーパーのダウンロード」などの小さな承諾を挟むことで、一貫性の原理が働き、次の要求である契約も承諾しやすくなるのです。
ビジネスシーンではプレゼンにより、相手の意思決定を促すことが多くあります。その際にも小さなYesを積み重ねることで、相手は一貫性を保とうという意識が強くなり、最終的な要求を承諾してくれ易くなります。少し会話ベースのやり取りを見てみましょう。
「御社の社員からこう言った事実をお聞きしましたがお間違いないでしょうか?(Yes)」
「この事実から〇〇が御社の課題と捉えていますがお間違いないでしょうか?(Yes)」
「この課題を解決するためのアセスメントや提案をさせていただけないでしょうか?(Yes)」
このような感じで、最初から目的である「アセスメントや提案の許可をもらう」ことを提示するのではなく、それまでに事実や仮説などに基づき相手からYesを積み重ねることで最終的な要求を受け入れてもらうイメージです。
フット・イン・ザ・ドアを活用する際は、以下のことに注意しましょう。
最終的な要求とのギャップの大きさ
最初の要求から次の要求へのギャップが大きいと、要求を突きつけられた相手は拒否感を持ちやすくなってしまいます。例えば、「5分だけお時間いただけますか(Yes)」の後に「もう一時間お時間頂戴できないでしょうか?」などです。適切な粒度感の要求を用意しておきましょう。
最終的な要求までの要求頻度
何回も要求を繰り返すとかえって承諾率が低くなってしまうことが知られています。実際に実験を行った所、2回要求をするよりも3回要求をしたほうが承諾率が低くなりました。しつこいと思われないように要求の頻度を調整しましょう。
最終的な要求との関連性
最初の要求と次の要求が全く関係のないものであると一貫性の原理が働きにくいため、フットインザドアの効果がみられなくなってしまいます。
例えば「化粧品の無料サンプルを試して欲しい」と言われ、受け取った後に「こちらのWi-Fiルーターの契約などもいかがでしょうか?」などです。要求は相手が一貫性を持ち易い内容にしましょう。
両テクニックの違いとまとめ
ドア・イン・ザ・フェイスとフット・イン・ザ・ドアは「最初の要求を相手に承諾してもらうかどうか」が異なっています。そのため、利用シーンとしては次の通り、状況や相手との関係性を含めた判断が必要になります。
ドア・イン・ザ・フェイスが向いている場面
要求の小出しが難しい場面(時間が限られている、相手との関係性が十分ではないなど)や返報性の原理が働き易い場面では、一度断られた後に最終的な要求を通すことで見譲歩したようにも捉えられるドア・イン・ザ・フェイスが向いているでしょう。
フット・イン・ザ・ドアが向いている場面
要求を小出しにし易い場面(初回コンタクトや初回契約時など)や、返報性の原理が働きづらい関係がある時は、段階的なYesを積み重ねて最終的な要求を通すフット・イン・ザ・ドアが向いていると言えるでしょう。
その時々で
判断をする必要や注意点はいくつかありますが、日常生活やビジネスシーンでも有効活用できる知識だと思うので、「ドア・イン・ザ・フェイス」と「フット・イン・ザ・ドア」のテクニックを意識的に取り入れてみてはいかがでしょうか?